多様な社員のキャリア再構築が企業を伸ばす: Cochlearの取り組み

3月8日は国際女性デー。かつて、キャリアとは一本道であり、決まったルートを進むものだと考えられていました。しかし、終身雇用制度の見直しが進む現代では、転職、休職、キャリアブレイクといった多様な選択肢が増え、キャリアはより柔軟でダイナミックなものへと変化しています。

企業にとっても、この変化に適応できるかどうかはビジネスの存続をも左右する重要な課題です。少子高齢化に伴う労働人口減少が進む日本社会において、育児のために一時キャリアを離れた母親やフルタイムの仕事から離れた人材の復職支援は、企業が真に多様性を受け入れながら成長を続けるための試金石となっています。

その最前線で革新を進めるのが、人工内耳などのインプラント型聴覚ソリューションを手掛けるCochlearです。同社は、単なる「復職支援」ではなく、「キャリアの再構築」という視点で育児を経た女性たちが新たなステージへと進める環境の整備に力を入れています。なぜCochlearはこの取り組みを重視するのか?そして、すべての従業員が働きやすい環境を整えることが、いかに企業の成長戦略に直結するのか?その本質に迫ります。

2025年2月某日、Cochlearオフィスにて。聞き手: 薄井シンシア

2025年2月某日、Cochlear日本オフィスにて。聞き手: 薄井シンシア


復職の扉を開くCochlearの採用戦略

「一度キャリアを中断した人材には、計り知れない価値があります。」CochlearのPeople & Culture担当バイスプレジデント、アンナ・オシェア氏はそう語る。「特に母親は、育児を通じて、時間管理能力、問題解決力、忍耐力といったビジネスに不可欠なスキルを鍛えています。こうした能力を活かさないのは、企業にとって機会損失になります。」

Cochlearでは、育児によるキャリアブレイクを「ブランク」ではなく「経験の蓄積」と捉え、その価値を積極的に評価しているという。実際の採用活動においても、過去の職歴にとらわれず、適応力やポテンシャルを重視し、企業の成長を共に築けるかどうかを見極めながら、最適な人材の採用を進めている。

「女性の割合が低い部署で募集をする場合、私たちは女性候補者を主な対象とします。この慣行は男女平等を促進し、多様性を高め、組織の競争力を強化します」。(オシェア氏) 

この考え方はCochlear全体にも浸透しており、社内の制度の中でも実践されている。フレックスタイム制度やリモートワークの活用、定期的な1on1ミーティングの実施など、柔軟な働き方を支援する仕組みが整えられており、復職後の成長を継続的にサポートしている。

「現在、当社のグローバル全体の従業員の53%が女性であり、日本においては62%の従業員が女性です。さらに、日本のリーダーシップチームにおいても43%が女性であり、これはグローバル目標とも一致しています。私たちにとって、ジェンダー平等は単なる採用方針ではなく、社員一人ひとりが成功できる環境を整えることが不可欠な課題なのです。」


柔軟な働き方が生み出す復職のしやすさ

Cochlearが復職支援を成功させる要因のひとつは、社員がライフステージに応じて柔軟に働ける環境を整えていることにある。特に、子育て世代にとって働きやすい制度が充実していることが、多くの復職者を支えている。

例えば、ある社員は家庭の事情で一度Cochlearを退職し、家業を手伝う期間を経て再入社した。きっかけは、元上司(現日本コクレア社長)からの連絡だった。「オンラインストアのローンチをリモートで手伝ってほしい」と声をかけられたことがきっかけだったという。その後、正式な復職の話があり、家庭の状況的にも余裕ができたことから、新たな挑戦として本格復帰を決断した。

「再就職は一般的に大変だと聞きますが、私の場合は再入社だったので、職場の環境も知っていて安心できました。さらに、復職後は週1回の在宅勤務など、柔軟な勤務形態を考慮していただき、スムーズに仕事に戻ることができました。」

Cochlearでは、一度退職した社員が再入社するケースも珍しくない。復職者の経験を「ブランク」とせず、新たな視点や広がった視野として評価する企業文化が根付いていることが、その背景にある。


キャリアブレイク後も活躍できる環境へ

復職後も継続してキャリアを築ける環境が整っていることも、Cochlearの強みの一つだ。

Cochlearでは定期的に社員のキャリア相談を実施し、希望や適性に応じた配置転換を行っている。復職者に対しても公平な昇進機会が与えられ、管理職へ昇進した社員もいる。「キャリアブレイクを経験したからといって、成長のチャンスが減ることはない」と話す社員の言葉が、その環境の実態を示している。

実際に、CochlearはNewsweekが選出する2024年版「最も信頼できる会社」の1位に選出された。”We help people hear and be heard”のミッションの元、社員が「公平に扱われている」と感じていること、そして社員全員がこのミッションを共有し、同じ方向を向いて文化を作り上げていることが評価された形だ。

このような制度と企業文化のもと、Cochlearでは復職者が単に職場に戻るだけでなく、新たな可能性を切り拓くことができる環境が整っているとオシェア氏は言う。

「私たちは、個人の経験やスキル、ポテンシャルを見極め、未来に向けてどれだけの価値を生み出せるかを重視しています。キャリアブレイクがあったかどうかではなく、その人がどのように成長し、組織に貢献できるかが重要なのです。」

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