
「働き方は、選ぶだけじゃなく、つくることもできる」
前編では、菜野さんがキャリアブレイクを経て起業に至るまでのお話を伺いました。後編では、現在の事業の内容や子どもと過ごす時間、そしてこれまでの選択を振り返っての思いを語っていただきます。
―菜野さんは具体的にどのようなお仕事をしているのですか。
菜野さん:もともとマーケティング、商品企画、営業をやっていたので、販売の現場から商品戦略を立てるということを一気通貫のコンサルティングをしていましたが、最近はAIを使った教育システムの開発もスタートしました。
―コンサルティングの集客はどのようにしていたのですか。
菜野さん:多くはありがたいことに知人の紹介です。以前一緒に働いていた方が務めている会社がクライアントになることが多いです。起業した理由は、大手の会社と仕事するのに、フリーだと取引口座が開設できない、信用が足りないなどの問題があるからです。
―一緒に働いている専業主婦の仲間が数名いらっしゃると聞きました。
菜野さん:はい。います。業務委託だったり仕事によってはパート契約だったりします。子育て中の方がメインですが、なかには地方移住して、兼業農家をしながらホワイトカラーワークを間に挟む働き方をしています。私の手だけでは足りない時には、手伝ってもらっています。
―私自身も個人で動ける仲間と連携して仕事をしているので、こうした働き方ができる時代だと実感します。
菜野さん:そう思うと、次の働き方で大切なのは商店同士のネットワークですね。似た状況の人とか、フルタイムで働けない人が繋がって働けると強いですね。
―確かにそうですね。菜野さんは会社員に復帰する予定はありますか。
菜野さん:このまま、会社を経営していくのが理想ですし、そうしていきたいと思っています。ただ、日本の言い伝えのひとつで「子どもの年齢が「つ」で数えられるうちは、親は目と手を離してはいけないというのがあるんですね。私の子どもが今8歳で、10歳になったら「とお」なので、目は離さないけど手は離してもいいと。これを区切りに考えていて、家にいて子どもから目を離さないようにしつつ、もう少し仕事をしたいと考えています。子どもを育ててわかった色々な社会課題もあるので、今後はAIを使った教育システムの開発に軸足を移していけたらと考えています。
―お子さんの成長に合わせて働き方を変えるのですね。菜野さんはご自身のこれまでの決断を振り返ってどう感じていますか。よかったと思うことや、逆に後悔したことはあるでしょうか。
菜野さん:シンシアさんもよく言っていますが、こうしてよかったかどうかというのは優先順位がどうなっているかということだと思います。優先順位が決められれば、それに沿って進んでいけばいいだけ。私は全部が美味しいということはないと思っています。そのときに取りたい方を取って、取れない方があっても、そのことに悩むことはないですね。失うものは縁がないのでしょうがない。
―働き方や生き方の選択肢が多い今の時代だからこそ、「優先順位を決める」という考え方は大切に感じます。
菜野さん:仕事はあとでもできます。仕事に何を求めるかはフェーズによって違うとも思うんです。若いときは、実績や経験値を積みたいと思い、それが収入に変わったりしますよね。でも、子どもが大きくなったあとに2歳の子どもを見たいと思っても戻れない。この間子どもがYouTubeを見たあとだと思うのですが、「人生は一方通行だから。その道は2度と通れないんだよ。」と言ったんです。「本当にその通りだな」と思いました。
―お子さんの言葉にハッとさせられますね。
菜野さん:私は、「キャリアをどうとらえるか」だと思います。専業主婦を10年していたら、10年会社員でいる人といきなり同じ土俵には立てないのは事実だと思います。でも仕事をするという意味ではあとからでも積み上げることはできるし、自営で細く働いていたら、キャリアは継続できているともいえます。私の場合は、出産前に管理職になっていたから後が続いているのかもしれないと考えることもありますが、それもそのときにできることをやった結果。だから人生後悔していることはないです。みんながやっているからやらなきゃいけないと思った方をとると、やりたかったことが残ってしまうことがあるけど、私は優先順位が明確な方なので、いつもやりたい方しかやっていないです。
―菜野さんは周りに流されず決断することを大切にされているのですね。
菜野さん:主体性を大事にしています。人間って自分がやりたいと思って内発的動機でやることが一番情熱を持って取り組めるし、子育てもそうです。子どもが毎日やりたいことがあるので、それを「どうぞ時間が許す限り好きなだけやってください。私はサポートします」というスタンスです。
―素敵ですね。お子さんはいつもどんなことをしているのですか。
菜野さん:習い事はしていないのですが、子どもがやりたいことはたくさんあって、自分が作ったレゴ作品をインスタグラムに投稿したり、水遊びをしたり、ゲームのコンセプトを考えたりしています。それに毎日付き合えるのは私が家にいられるからですね。夏休みはずっとUFOキャッチャーをすると言って、ゲームセンターに通算10時間くらいを費やしましたね。UFOキャッチャーってある種STEM教育みたいなんです。最初に子供と決めた500円の予算でぬいぐるみが取れないと、子供はなんで取れないんだとずっと考えるんです。アームの使い方かな?ぬいぐるみの向きかな?重さかな?って。家でシュミレーションをしてみたりして。習い事でなくてもそうした日常の小さな体験から学ぶことはたくさんあります。子供は、試行錯誤の結果、最終的に夏休み中にぬいぐるみを三個取ることができました。私は取れませんでしたが(笑)
―確かに、学校教育や習い事以外にも、世の中にはたくさんの発見や学びがありますよね。
最後にお伺いします。以前、菜野さんがご自身のことを「専業主婦」と表現されていましたが、その肩書きにご自身はしっくりきますか。
菜野さん:「専業主婦です」、「一応仕事もしています」と周りには言っていて、何でしょう。兼業主婦でしょうか。でもフルタイムじゃないと働いていないというのは、変な話ですよね。私は、基本的に生活の土台に子どもと安心して過ごす時間を先に配置して、その上に仕事を配置しています。生活のリズムが、子ども基準。しかも、暮らしと仕事に境界線があまりなく、いつでも子供に対応できるので、気分的に専業主婦なのでしょうね。専業ママかな?ただ、剛田商店と違って閉店時間がないので、仕事の時間が足りないときは子どもが寝た後に対応することになりますが・・
―「子どもが求めるときに応じられる、そのための時間を自分で作る働き方」ですね。私自身もそうでありたいと感じます。
インタビューを終えて
「人生は一方通行で、同じ道は二度と通れない」―菜野さんのお話を伺い、後悔しない道であれば、今やりたいことを優先してよいのだと気づかされました。目の前の子どもとの時間をもっと大切にしてよいのだと背中を押された気がします。
そして、私自身、自営業として仕事と育児を同時並行にしており、菜野さんのお話には深く共感する点がいくつもありました。「子育ても仕事も別々に考えるから上手くいかない」という視点はとても印象的で、「剛田商店方式」のような働き方は、まさに理想的だと感じます。今の時代のテクノロジーを活かしつつ、昔ながらの働き方をする。会社員という働き方を選ばなかったからこそ実現できる働き方だと感じました。
菜野さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。

