【後編】全ては人との出会いから。挑戦を重ねながら歩む、母としての人生〈Career Break Diary vol.3 増田陽子さん〉

「このために生きてきた」出会えた命とともに 今を最大限に生きる

前編では、人との出会いを重ねながら新しい世界へ挑戦してこられた、陽子さんのキャリアの歩みについてお話しいただきました。

【前編】全ては人との出会いから。挑戦を重ねながら歩む、母としての人生〈Career Break Diary vol.3 増田陽子さん〉

後編では、40代での結婚・妊娠・出産という人生の大きな転機を迎えた陽子さんが、母となった今、どのように仕事や家族、そして自分自身と向き合っているのかを伺います。

―転職後すぐに妊娠がわかったのですね。陽子さんは、いつご結婚されたのですか。

陽子さん:結婚したのはコカ・コーラにいた頃で40歳を過ぎてからです。普通なら、もう妊娠を諦める年齢かもしれませんよね。だから最初からすぐにクリニックに通うことにしました。そして、当然なのですがこの年齢での妊活は本当に大変で……更にかなりのプレッシャーがある中でのハードワークだったので通院も難しかったです。ただコロナでリモートワークになったことで、睡眠も取れて、通勤のストレスもなくなって、通院も楽になったんですよ。

―それは本当にタイミングがよかったですね。コロナによって人生が変わった人はきっと多いでしょうね。

陽子さん:本当に。そうやって数年で環境が整っていったからこそ、妊娠できたのかなと思います。とはいえ、その頃は心の中ではもう半分くらいは諦めているんです。頭の中では子供が持てなかった人生もちょっと描きつつという感じでした。

―妊娠されてから、働き方に変化はありましたか。

陽子さん:Spotifyの上司がオーストラリア在住のオーストラリア人でした。男性だったのですが、彼自身も2歳児のパパだったため子ども中心の生活にとても理解のある方だったんです。「オフィスには無理に行かなくても良いよ。僕もほぼフルリモートだから」と言っていただけて、本当に恵まれた環境でした。しかも、私は悪阻が全くなかったんですよ。そのおかげもあって、出産予定の2~3週間前まで、ギリギリまで働きました。

―ご出産後、体調はいかがでしたか。

陽子さん:実は、出産時に出血が多く、病室で倒れてしまったんです。やはり年齢を重ねていくうえでのリスクは多少あるかもしれません。でも、それも覚悟のうえでした。「この子のために私は生きてきたんだ!」と思えるくらい、どうしても欲しかった子どもだったので。

―妊娠を経て出産すると、命の重みと母としての使命を実感しますよね。陽子さんは出産後、復職はされたのでしょうか。

陽子さん:実は、私が復職する予定の2ヶ月前に、会社がグローバル規模の大きなリオーガナイゼーション(組織再編)をしまして。それで、私の所属していた部署ごとなくなってしまったんですよ。ちょうど保育園の申し込みなど復職に向けた準備をしていた時期でしたが、子どもと過ごす時間が惜しく、「私フルタイムで戻りたいのかな」と自問自答しているところだったので、最終的に私にとっては良かった結果でした。

―結局、保育園には入らなかったのですね。復職をする前、保育園を利用せず会社を辞める選択肢は考えましたか。

陽子さん:葛藤はありましたが、環境が良かったので退職は考えなかったです。それと、日本市場で事業を拡大していくためのプランだけ立てて産休に入ってしまったので、実行に移せていなかったことへのモヤモヤがあったんです。

―会社に戻ることはなくなった中で、お子さんと過ごす時間をどのように感じていますか。

陽子さん:子どもって小学校高学年や中学生になると、きっと友達と遊ぶ時間や部活動などが中心の生活になっていきますよね。私も実際そうでしたし。なので、「子どもと過ごすこの時間は日々どんどん減っていっているんだ」と思って今は1日1日を大切に過ごしています。しかも、私が子どもを産んだのが45歳なので、30代前半で出産した人と比べると、子どもと一緒にいられる時間がかなり少ないんですよ。なので、一緒にいる時間を1秒でも多く大切にしたいと考えています。

―陽子さんはお子さんがいらっしゃる現在もご自身の会社のお仕事を続けられていると伺いました。出産後、お仕事は徐々に再開されたのですか。

陽子さん:そうですね、あえて「これから産休に入ります」とは、自分の仕事関係の方には特に伝えていませんでした。もしご依頼があって、自分のタイミングでお引き受けできそうであればそのタイミングで再開しよう、というスタンスでした。出産後最初にお話しをいただいたのは、以前からずっとお仕事をいただいていた気心の知れたクライアントの方からで、通訳やイベント関連のお仕事でした。

―お子さんは2歳ですよね。現在はどのような働き方をされていますか。

陽子さん:今は区の制度の一時預かりを毎週2回(最大回数)利用しています。利用料は1時間500円で我が家は1日7時間。実は夫も自営業で水・木が休みなので、その2日は夫とともに子どもと過ごしています。また、土日は母が来てくれることもあり、家族のサポートの中で自分に与えられた時間で、できることを最大限やっていく―今はそういうスタンスです。プロジェクトによっては、寝かしつけが終わってから夜中まで仕事をする期間もあります。

―海外に出張に行かれることもありますか。

陽子さん:はい。出産後、昨年4月には約1週間、今年4月には2回目の海外出張で、ミラノサローネに10日間も行ってきました。子どもは夫に託して。母のサポートもお願いしながら。来年はどうなるだろう。男の子ということもあって、最近のママっ子っぷりを見ていると少し心配な部分もありますね。

―今後、お仕事や子育てについて、どのような未来を描いていらっしゃいますか。

陽子さん:仕事している母親がすごく楽しそうにしているという姿を見せられたらなと思っています。仕事で「ママがいなくなっちゃって嫌だ」と思ってほしくなくて。

「なんかママはお仕事している時、楽しそうで輝いているな」と思ってほしいですね。本当に好きでしていることですし、私も主人も会社員ではないので、自由に動ける部分もあるんですよね。

―素敵ですね。収入面のことをお尋ねしますが、もっと稼ぎたいとお考えですか?それとも、今は不安がない状況なのでしょうか。

陽子さん:不安は常にあります。子どもはまだまだ小さいので、これからお金がかかるじゃないですか。多くのご家庭では、そういう時期は30代や40代で迎えると思うんですけど、私たちの場合はその時期がずれていて、世間一般ではもう引退が見えてくるような年齢なんですよね。でも、幸いなことに私たちは夫婦ともに自営業なので、「70歳を過ぎてもまだまだ働きたい」と思えているんです。生涯現役で好きな仕事を夫婦で続けていきたいと考えています。

―いずれ会社員に戻るという選択肢もお考えですか。

陽子さん:はい。ハイブリッド勤務や、週に数回の出勤でよいという条件の職場があれば、戻ってもいいかなとも思っています。ただ、私はもともとフリーランスだったこともあって、「会社に所属するのが前提で働く」という感覚があまりないんです。そういう意味では、子育て中の方も会社員という形に捉われすぎず、もっと柔軟に考えてもいいんじゃないかなと思います。キャリアブレイク中でも、例えば英語の勉強や、時間管理・タスク管理など、何かひとつでもできることを隙間時間に少しずつやっておけば、それは「完全なブレイク」にはならないと思うんです。そうしていると、時間ができたときには、仕事に戻りやすくなる気がします。何かに意識を向けて、常に少しずつでも動いていれば、それが意外と積み上がっていく―そんな感覚でいます。

―陽子さんは、これまで本当に充実したご経験を重ねられていると感じます。陽子さんはご自身の人生やキャリア、子どもを授かったタイミングなどを振り返ってみて、どのように思われますか?

陽子さん:子どもはずっと欲しかったんですが、結局、その人その人にとっての「いいタイミング」があると思うんですよね。私も35歳のときにすごく子どもが欲しいと思っていたけれど、そのときに授かっていても、今ほど人生が充実していたかどうかはわかりません。「自分の人生」という単位で見たときには、本当に「ベストなタイミングでベストな相手と子どもを持つことができた」と思っているんです。なので、周りの多くの人が「早く職場復帰しなきゃ」と言っている中でも、私は焦らず子育てができています。それと、会社という一つの価値観やコミュニティだけで生きるのではなく、色々な経験をすることが、これからの時代は大事になると感じていて。結局、プランを立てても子どもを持つことや結婚は、全て人との出会いで決まっていく。もちろん計画は大事だけれど、「この方向に行きたい」とゴールだけ想い続けていれば、自然とそこに向かって進んでいけるんだと思っています。私の人生がそうだったように。

―人との出会いと自分の強い思い次第ですよね。まさに陽子さんの歩まれた人生そのものだと感じます。

インタビューを終えて

陽子さんの言葉には、力強さと信念、そして、しなやかさを感じました。豊富なキャリアを歩んでこられた中でも、「大切なのは家族」「この子のために生きてきた」という言葉から、人生の節目ごとに家族を想う気持ちが強く伝わってきました。

また、ご自身の状況を「恵まれている」「結果的に良かった」と語られていたのがとても印象的でした。その姿と言葉に私自身、大きな勇気をもらいました。

会社員というかたちではないが、人生の中で自分が歩んできた道を、子どもが産まれてからも一緒に歩んでいく——それはとてもシンプルで、一貫性のある生き方だと感じます。そして、「子どもとの時間は減っていく一方」という言葉が心に残りました。私自身も0歳の娘との時間とこの命をより一層尊く感じたインタビューでした。

陽子さん、心に残るお話しを本当にありがとうございました。

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By Yuna Suemune

本サイトの運営者。鉄道業界での建築設計、外資系メーカーでの営業・マーケティング業務を経て、家庭と仕事とのバランスを考慮し現在は正社員としての働き方をお休み中。得意なレイアウトデザインと一級建築士の資格を活かして、個人事業主として教材や資料制作などの仕事を行う。2025年1月に里帰り出産も兼ねて地元九州に移住し、3月に第一子を出産。福岡の自宅で仕事をしながら子育てに奮闘中。

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